前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
「俺も今年で三十五になるし、いい加減に嫁さん探さなきゃなと思ってたんだ。トキさんも時間がたっぷりあるわけじゃないし、早いほうがいいだろう」
「や……でも、そんな簡単に……」


 決めていいの? むしろ本気なんですか?と、疑うのは自然じゃないだろうか。だって、まさか先生が本当に結婚を承諾するわけが──。


「俺は、責任を持てないことは言わない」


 力強い声できっぱりと断言され、猜疑心は呆気なく薄れていく。前髪がかかる瞳からは真剣さが感じ取れ、心臓が揺れ動いた。

 職業柄でもあるだろうが、確かに明神先生はできないことは言わないし、有言実行する人だとも思う。『結婚しよう』と口にしたのは、冗談でも軽い気持ちでもなさそうだ。

 心拍数も体温も上昇するのを感じていると、彼は表情を崩さずに、自虐を交えつつも真面目な調子で言う。


「小学生にボケてるって言われるし、寝癖を直すの面倒でこの髪型だし、表情筋も死んでるような男だけど、俺の嫁になってくれるか?」


 逆プロポーズをしてしまったはずが、普通にプロポーズされる展開になり、頭がついていかない。受け入れてもらえるなんて思いもしなかったから。
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