前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 頷くだけでいいのに首を動かすことすらできず、ただ頬を火照らせるだけの私。しばしその状態だったので彼は痺れを切らしたのか、なにやら黒いカジュアルなバッグの中を漁りだす。

 そこから取り出したものを「はい」と渡された。受け取ったのは、よく見る書類でも入っていそうな縦長の茶封筒。


「これは……?」
「ラブレターの返事。君が決心したら中を見ていいよ」


 えっ、先生が返事を書いてくれたの?

 この事務的な茶封筒に入れるのが先生らしい。まあ、男性でレターセットなんて持っている人はほとんどいないだろうけど。

 面白く思いつつも、返事を書いてくれたことにキュンとする。でも、なぜ決心しないと見ちゃいけないのか、いまいちわからない。

 胸をざわめかせて封筒に視線を落としていると、先生はおもむろに腰を上げ、「じゃ」と短く告げて歩きだす。呼び止めようにもなにを話したらいいかわからず、結局見送ってしまった。

 この中には、おそらく先生の気持ちが入っている。一体どんなことが書かれているのだろう。

 だいぶ日が落ちて薄暗くなってきた図書室で、時計の針の音と、それ以上に早い自分の鼓動を感じながら、しばらく茶封筒を見つめ続けていた。

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