前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
「突然電話してすみません。あ、あの……」
『電話をくれたってことは、中を見たのか。決心した?』


 まごつく私に、先生はこちらが伝えたい内容を淡々と投げてきた。膝の上に置いた片方の手をぎゅっと握り、ここはしっかりと答える。


「はい」
『……そう』


 優しい声色で、けれどあっさりと返され、少々拍子抜けする。先生らしいと言えばらしいのだが、結婚をあまり重く捉えていないように感じてしまって。

 私にとってはかなり一大事なんですが……と、シュンとしたのはつかの間だった。


『じゃあ、まずはデートしようか』


 ときめくひとことが聞こえ、私はぱっと顔を上げて「デート!?」と繰り返した。先生は落ち着いた調子で続ける。


『俺たちはお互いに、司書の姿と白衣を着ている姿しか見ていないだろ。俺はもっと知りたいと思ってる。奥さんになる君のこと』


 ……ああ、ごめんなさい。前言撤回します。先生は結婚を軽く捉えているわけじゃなく、感情をあからさまに表さないだけだ。

 彼を理解するにはまだまだ時間が必要だと反省するも、彼の言葉に嬉しさも感じて頬が緩む。


「私も知りたいです。先生のこと」


 そう返せば、電話の向こうから、ふっとこぼれる息と共に『ん、決まり』と聞こえてきて、わずかに微笑んでいる彼の顔が想像できた。

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