前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 ところが、先生は特にショックを受けた様子もなく、穏やかに微笑んでいる。


「うまくいくといいですね。ああでも、ひとり残念がる人がいるな」


 彼が口にした意味深なひとことに、私も末永さんもキョトンとした。

 私に恋人ができて残念がる人なんているだろうか。そもそもこんなふうに言うとは、やはり栄先生の噂はただのデマだったのだ。

 私はまったく驚かないが、末永さんは目を丸くして不思議そうにしている。


「えっ、それって栄先生じゃなく?」
「僕? 違いますよ。もしかして勘違いしてました?」
「あー……すみません。よく図書室に来られるから、伊吹ちゃんに気があるのかと」


 きっぱり否定した先生に、末永さんは肩をすくめて苦笑交じりに返した。すると彼は、綺麗な顔になぜか落胆の色を滲ませ、小さなため息をつく。


「末永さん、あなたが婚期を逃している理由がわかる気がします」


 彼には不釣り合いなデリカシーのない発言に、末永さんはパチパチと瞬きしたあと「は!?」とすっとんきょうな声を上げた。


「運命の人は意外と身近にいたりしますよ。婚活パーティーもいいけど、日頃からアンテナを張り巡らせてみては? 独身三十路目前女を早く卒業しましょう」
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