前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 私は自他共に認める話下手だ。家族や親しい友達、子供たちに対しては普通なのに、それ以外の相手だと人見知りのスイッチが入って、うまく話すことができない。特に男性はダメ。

 仕事中なら、定型文のようにある程度決まった会話で済むからいいものの、そこから離れると途端にすらすらと言葉が出なくなってしまう。

 そんな私に必須なのが、ノートや手紙なのである。文字にすれば思ったことを伝えられるので、昔から書くものは常に持ち歩いているし、レターセットもたくさん用意しているというわけだ。

 梨乃ちゃんは迷った末にリボンのデザインが可愛い便箋に決め、カウンターと患者図書室の間に設置されたラウンドテーブルの席に座って、さっそく書き始める。

 それを見たふたりの女の子が、「あたしも書きたーい!」と口々に言い、便箋をあげると梨乃ちゃんと同じテーブルについた。

 三人はそれぞれ包帯をしていたり帽子を被ったりしているけれど、病気を忘れさせるくらいに楽しそう。このひとときが、辛い治療の息抜きになればいいな。

 ついでに自分の業務のことも一瞬忘れ、微笑ましく彼女たちを眺めていると、同じほうを見ながら杖をついた高齢の女性がやってくる。
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