前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 お互いにそんな調子でショッピングセンターの中を歩いていると、先生が私を見下ろして口を開く。


「まずは昼飯だな。浜菜さんはなにが……いや、違う」


 おそらくランチはなにを食べたいかを聞こうとしたのだろうが、なぜか考える仕草を見せるので、私はキョトンとした。

「〝伊吹さん〟も他人行儀だし、〝伊吹ちゃん〟はこそばゆいし」と、どうやら呼び方が気になったらしくぶつぶつと呟いていた彼は、ふいに柔らかな視線で私を包み込む。


「伊吹」


 自分の名前に愛しさを与えてくれるような声で呼ばれ、胸が軽やかに波打つ。


「で、いい?」
「……はい」


 断る理由などひとつもなく、はにかんで頷いた。

 一歩一歩、距離が縮んでいく感じがしてとても嬉しい。私はまだ照れてしまって名前では呼べそうにないけれど、いつか対等になれるだろうか。

 男の人と付き合うってこんな感じなんだな……と、恋愛の甘酸っぱさを初めて知る。遅すぎる青春に、私はひとり心の中で苦笑した。
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