前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
しばらくぶらぶらして話し合い、お互いに和食が食べたい気分だと意見が一致したので、一見バーのような雰囲気の仄暗く小洒落た和食レストランに入った。
明神先生はどんな場所にいても絵になる。柔らかなオレンジ色の照明に照らされる整った顔を盗み見ていると、せっかくの機会なのだから勇気を出していろいろ聞いてみようと思い立った。
オーダーを済ませてから、とりあえず最初に浮かんだ質問を投げかけてみる。
「先生は、食べ物の好き嫌いはありますか?」
「なんでも食べるよ。雑草とか虫以外は」
それは最初からカウントしなくて大丈夫です、と心の中でツッコんだ。クスクスと笑う私を、先生は片方の手で頬杖をついて見つめる。
「伊吹は?」
滑らかな低音ボイスで名前を呼ばれるのは、胸をときめかせる効果があるらしい。呼び捨てにはまだ慣れなくて、私は照れつつ答える。
「見た目がグロテスクなものが苦手です。貝類とか、白子とか」
「グロテスクね、なんかわかる気がする。手術してるせいか、俺は平気だけど」
「ああ、なるほど」