前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 なにを見るかはその場で決めることにしていたため、チケット売り場のフロアで上映中の映画のポスターをひと通り眺める。その中の、ゾンビらしき姿がおどろおどろしい作品を先生が指差す。


「このグロそうなやつにするか」
「え」


 ギョッとして固まると、彼は「冗談です」といたずらっぽい顔を見せた。

 さっき私がグロテスクなものは苦手と言ったからだ。若干頬を膨らませるも、からかってくる先生も貴重だし軽いやり取りが楽しくて、結局笑ってしまった。

 私が目についたのは、白衣を着た男性が映るポスター。お医者様は、同じ職種の映画やドラマは好きなのか気になる。


「先生は医療モノ見ます?」
「見るよ。オペの手つきが上手い役者さんだなとか、あの展開はフィクションならではだなとかツッコみながら」


 やっぱりそういう目線で見るんだ。面白い感想が聞けそうだなと思い、今度は私が白衣の男性のポスターを指差す。


「これにしましょうか」
「医療ミステリー、いいね。でも俺に気遣ってない?」
「いえ、先生のツッコミが聞きたいので」


 きっぱり言うと、先生は私を見下ろしてかすかに含み笑いする。
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