前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 佳境に差しかかるにつれ、身を固くして見入っていた。

 そのとき、突然大きな音がすると共に変死体らしきものが映され、驚いた私は「ひっ」と息を吸って思わず右側の肘かけを掴んだ。

 ……はずだったのだが、掴んだものは平らな肘かけではなく、もっとゴツゴツしている。あれ?と目を向ければ、なんと明神先生の手の甲を思いっきり握っているではないか。

 今度は別の理由で叫びたくなり、反射的に胸の前にバッと手を引っ込めた。身体も引き気味で。

 その直後、〝しまった〟とやや後悔する。今のはあからさまに拒絶したと受け取られただろうか。夫になろうとしてくれている人に対して、こんな反応をするのは失礼だったかもしれない。

 末永さんは『さりげないボディタッチはかなり効果があるから、余裕があったらやってみて』なんて言っていたけれど、これじゃ逆効果じゃない?

 恐る恐る隣に目線を移した私は、スクリーンの明かりに照らされる先生の意外な表情に目を丸くした。予想に反して、彼の口角が緩やかに上がっていたから。

 さらに、肘かけに乗せられている彼の手が上向きにされ、手の平を見せられる。
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