前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 ……まるで〝大丈夫だから手を預けていいよ〟と言われているみたい。まさか先生は、私が抱えているものに気づいている? いや、そんなわけないか。

 実は、男性と触れ合うのは会話をするよりもずっと苦手。そうなった原因である過去の出来事を、どうしても蒸し返してしまうから。

 でも結婚するのなら、これくらいの軽い触れ合いだけじゃ済まないのは当然わかっているし、克服したいとも思っている。

 明神先生となら、普通の恋人同士みたいに触れ合えるようになりたい。理由は簡単、彼を好きだからだ。

 勇気を出して、今度は意図的にそろそろと手を伸ばす。

 ものすごく遠慮がちにちょこっと触れた次の瞬間、彼の大きな手が私のそれを包み込んだ。獲物を捕まえるように素早く、かつ守るように優しく。

 初めて手を握られ、もう映画どころではなくなって心臓が暴れる。

 私の手が、先生と繋がっている……めちゃくちゃ緊張する! けど、全然嫌じゃない。むしろ、伝わってくる体温が心地いい。

 安心感と、とても愛しい気持ちが湧いてきて、唇を結びながら彼の手をきゅっと握り返した。

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