前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
戸塚区にある自分の家に向かい、私は夕暮れが始まったばかりの街をひとりとぼとぼと歩いた。呼び出しがなければ今頃まだ明神先生と過ごせていたと思うと、やりきれない気持ちになる。
でも、先生は患者のために駆けつけるのが第一で、私なんかは当然二の次でいいのだ。これから先もずっと。
そう十分わかっていたはずなのに、未来を考えると不安になる。
一緒にいたくてもいられなかったり、困った事態が起きても頼れなかったり。そういうことに不満を抱かないとは限らないし、それが小さくても積み重なったら大きな問題になりかねないだろう。
私はそれらをすべて受け入れて、先生に一生添い遂げる覚悟はある──?
考えを巡らせながら到着したわが家に入り、廊下を歩いているとリビングダイニングから出てきた大地と鉢合わせた。「おかえり」と言った彼は、少々意地悪な顔になる。
「早かったじゃん。つまらなかった?」
「違う。先生に呼び出しがかかったの」
むしろとっても素敵な時間だったよ、と心の中で物申していると、大地は「ふーん」と気のない反応をする。しかし、内心ではやはり心配らしい。
「医者ってほんと大変だな。姉ちゃんが悲しませられないといいけど」