前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
それからしばらくして、スマホが振動しながら軽やかなメロディーを鳴らしていることに気づく。ぼんやりとした視界にその光景が映り、私はパチッと瞼を開いた。
うわ、私いつの間にか寝ていた!? 慌ててスマホを手に取り、ディスプレイを見た瞬間に目を丸くする。
「明神先生……!」
時刻は午後六時を過ぎたところで、外はまだ明るさが残っている。どうしたのだろうと頭の中にハテナマークを浮かべるも、とりあえず電話に出た。
『伊吹? 今日は悪かった。中途半端なところでひとりで帰らせて』
聞こえてきた声は真っ先に謝罪から始まり、私は誰も見ていないのに首をぶんぶんと横に振る。
「いえそんな、いいんです! 手術は無事終わりましたか?」
『ああ、問題ない』
またひとり救われたんだ、よかった。先生にも労いの言葉をかけようとしたとき、なぜかまったく関係のない話にあっさりと変わる。
『それで、君の家は〝お菓子の家みたいな洋菓子店の近く〟だったっけ』