前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 自嘲してほんの少し切なくなっていると、先生はこんなふうに続ける。


「伊吹さんは私にとって大きな存在です。私が今も医者を続けているのは、彼女のおかげでもあるので」


 ──私のおかげ?

 出まかせにしてはなんとも大袈裟で引っかかる。私がそこまで先生に影響を与えるようなことをした覚えもない。やっぱりただのデタラメ?

 いつの間にか落ちていた視線を再び戻したとき、彼も魅惑的な瞳でこちらを一瞥する。


「それに、伊吹さんはとても可愛い。外見だけでなく中身も」


 あけっぴろげな発言で今しがたの疑問はあっさりと消え、私は目をしばたたかせる。他の皆もキョトンとした。

 そしてすぐ、ずっと威厳を保っていた父の顔に締まりがなくなっていく。


「そうだろう? 伊吹は可愛いんだよ~」


 褒められたせいかご満悦そうにニンマリする父を見て、私は軽く引いた。こんなに親バカだったっけ……。


「いや〜『どこの馬の骨ともわからない男に娘はやらん!』ってセリフも言ってみたかったんだが、娘の可愛さをわかってもらえるのは嬉しいものだな」
「そうよねぇ。こんなに伊吹を想ってくれてるのがわかって安心したわ」
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