前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
「今度は俺の両親にも会ってくれるか? 俺の家庭環境は少し複雑だから、伊吹にも気を遣わせるかもしれないが」


 先生の家庭にはなにか事情があるらしい。気になるけれど、それのせいでご両親と会いたくないとか、結婚を渋るつもりは一切ない。


「大丈夫です。先生のすべてを受け入れる覚悟はできていますから」


 彼を見上げて微笑み、しっかりと言い切った。

 ところがその直後、今のはなんだか意味深で恥ずかしいセリフだった気がして羞恥心に襲われる。素直な気持ちを伝えるとき、いつもは口にロックがかかってしまうのに、どうして自然に声にできたんだろう。

 無意識に口元に手を当てていると、目の前の彼の足が一歩こちらに近づく。


「伊吹」


 わずかに色気を含んだ声で名前を呼ばれた次の瞬間、髪にそっと片手が触れ、後頭部を支えられる。

 爽やかな香りがほのかに鼻をかすめると同時に、頭のてっぺんになにかが触れた。
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