前略、結婚してください~過保護な外科医にいきなりお嫁入り~
 そうして食事を終え、明神先生がお手洗いに向かったタイミングで、ふいにお母様が真面目な調子で私に話しかける。


「伊吹さん、あの子を好きになってくれて本当にありがとう。いつまでも独り身だから心配していたのよ」
「久夜には家庭のことで苦労させたから、もしかしたら結婚自体したくないんじゃないかと思っていたんだ」


 続けてお父様が苦笑交じりに口にした言葉で、胸がかすかにざわめく。


「私たちの事情は聞いているね?」


 お父様に確認され、私は「はい」と頷いた。

 先生は今のご両親が再婚であることの他に、実の母親についても話してくれた。彼女はお父様と離婚したあとに病気で亡くなっていて、亡くなる前に別の男性との間に男の子を産んでいる、と。

 つまり、先生には異父兄弟である弟さんがいる。お互いに存在を知っていて何度も会っているが、弟さんのほうは決して裕福とは言えない環境で育てられたせいか、先生を疎ましく思っているらしい。

 ご両親との仲は良好でも、そういった事情から結婚に関しては消極的だったのだろうか。
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