恋人のフリはもう嫌です

 せめてカフェとかでの待ち合わせにしてもらえば良かったかな、と考えたところで、目を疑う光景を目の当たりにする。

 待ち合わせ場所で、彼が2人組の女性に声をかけられていた。

「あ、来た。千穂ちゃん!」

 私をいち早く見つけた西山さんが、私に向かって手を振ると、声をかけていた女性たちは立ち去っていく。

「あの、セールスかなにかってわけじゃ」

「ああ。うん。この後、時間ありますかって」

 思いっきりナンパだ。

 それはそうだ。
 ラフな白いTシャツと、なんでもないジーンズがこれほど似合う人を私は知らない。

 シンプルな白いTシャツは、イケメンか美人しか着てはいけないと、毒舌なファンションアドバイザーが話していたのを思い出す。

 ファッションは自由でしょ! と、その時は憤慨したけれど、今なら大きく肯ける。

 シンプルな服装が、彼の美しさを際立たせている。

「どうしたの? ぼんやりして」

 流れる髪を後ろに流すだけで、彼の周りに星が飛んでいる錯覚を覚えて目眩がする。
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