恋人のフリはもう嫌です
なにより、会社とは違う半袖。
初めて見る、出ている腕を直視できない。
「あの、腕が」
「腕?」
なにかついているのかと、曲げて肘辺りを見る彼の仕草が、男らしい腕の筋を強調して、目がチカチカする。
「見ていられないので、長袖を着てほしいです」
「見られないほど、貧弱?」
「いえ、想像よりずっと、その」
「へえ。想像より? どんな想像したのかなあ」
妖しく目を細める西山さんに、慌てて抗議する。
「言い方! 言い方を注意してください! 昨日、というより既に今朝でしたけれど、その時も」
私がまとめて文句を言おうとしているのに、彼は気の抜ける返答をする。
「ああ、そうだよね。今朝まで、一緒にいたんだよね」
ああ、だから言い方!
男女が一夜を共にしたみたいな、誤解を受けるから!
そう思っても、この際、そこはいい。
もっと重大な部分がある。
「不確かな感じに、聞こえるのですが。覚えて、いないのですか?」
彼はバツの悪そうな顔をして、頭をかく。
「うん。断片的で。夢かもなあというくらいに」