恋人のフリはもう嫌です

 西山さんしか見ていなかった彼女は、視線を移し私に向かって告げた。

「あなたも早めに気づくことね。透哉は、誰も本気で好きにならないから」

 綺麗な髪をなびかせ、女性は去って行った。
 居た堪れない空気を残して。

「悪い。嫌な思いさせた」

 なにを言えばいいのか。
 私は沈黙が降りないうちに、口を開いた。

 それは気になっていた内容。

「昨日、健太郎さんと飲まれたのは、どういった経緯で」

 私の質問に、彼は顔を歪めた。
 ああ、嫌な予感が当たった気がする。

 健太郎さんは私が男性と仲良くなると、その男性を父親代わりにチェックする時があった。

 女性関係を指摘して、私に相応しくないと知らしめるためだと言われたことがある。

 健太郎さんから当時の彼の女関係を聞き、冷めてしまった経験もある。

 けれど今回、健太郎さんはなにも言わなかった。
 健太郎さんが私に言えないくらい、彼の女性関係はひどいのかもしれない。

 そこは敢えて聞きたくない。
 それよりも、健太郎さんに詰め寄られ、西山さんの方が私との関係を面倒に思ったら。

 西山さんは歪めた顔を私から背け、絞り出したような声を出した。

「理由は、教えたくない」
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