恋人のフリはもう嫌です

 忘れられない彼女と、私を重ねているのかな。

 それでもいい。
 彼の寂しそうな顔を、見ていられなかった。

 どちらともなく顔を近づけ、唇が触れた。
 彼の胸に顔をうずめると、彼の囁きが耳をくすぐる。

「ほくろ見つけた」

 ペロリと首すじを舐められ、肩を縮めた。

「俺が誰にも本気じゃなかったと聞いて、嬉しくは、ならないか」

 自分で質問しながら自己完結した彼に、私は思いを吐露する。

「軽い付き合いを、好んでいらしたから?」

「まあ、うん。そうだね。軽蔑する?」

 私は首を横に振る。

「なんだか、寂しく思えてしまって」

「同情、した?」

「そんな、滅相もない」

 力強く否定すると、彼は笑った。

「寂しいと言ったら、慰めてくれる?」

 縋るような眼差しは、胸を締め付けた。

 ゆっくりと彼は私に顔を近づけ、再び唇を重ねた。
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