恋人のフリはもう嫌です

「ごめん。気遣えなくて」

 彼はまぶたにそっとキスをして、私を抱き寄せた。
 女の狡い武器を使って、彼を引き留めてしまった。

 後ろめたさを感じながらも、彼の腕の中で彼の温もりを感じる。
 先ほどまでは余裕が無くて、感じられなかった彼の温もり。
 ドキドキするものの、同時に安心する。

 私は思わず目の前の彼の胸元に顔をうずめ、すり寄せた。
 息を飲んだ彼が、声を上擦らせて言う。

「今、甘える?」

「あの、だって」

「このまま、少し眠ろう。昨日の寝不足やらの色々が、思考力を低下させている」
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