恋人のフリはもう嫌です
西山透哉side
彼女にしてみれば、嵐のような一日だったのだろう。
本当に眠ってしまったようで、かわいらしい寝息を立てている。
愛おしくて、彼女の頭にキスを落とす。
唇を重ねた時も、初心だとは思っていた。
けれど、まさか経験がないとは思わなかった。
これは健太郎に、礼を言えばいいのか。
いや、男に対しての自信の無さは、あいつのせいだ。
彼女は、自分がモテないと思っている。
勘違いも甚だしい。
今日だけでも、どれだけの男の視線を集めていると思っているのか。
もし、彼女が真実を知ったら。
彼女は喜んで、俺との恋人役を解消するだろうか。
馬鹿馬鹿しい。
もしもの世界を想像したところで、意味はない。
自分の心を誤魔化し、天井を仰いだ。
成り行きで肌を重ねてしまえば、もしかして。
狡い考えに、流されかけた。
ほとんど濁流に飲み込まれていた。
流されてしまえば良かったのか。
疲れが出たからといっても、あまりに無防備に眠る彼女の顔を見て、涙の跡を指の腹で拭う。
健太郎の結婚を知ったら、どういう反応をするだろうか。
彼女から、慰めてほしいと泣きつかれたら。
次は、止められる自信がない。