恋人のフリはもう嫌です

西山透哉side

 彼女にしてみれば、嵐のような一日だったのだろう。
 本当に眠ってしまったようで、かわいらしい寝息を立てている。

 愛おしくて、彼女の頭にキスを落とす。

 唇を重ねた時も、初心だとは思っていた。
 けれど、まさか経験がないとは思わなかった。

 これは健太郎に、礼を言えばいいのか。
 いや、男に対しての自信の無さは、あいつのせいだ。

 彼女は、自分がモテないと思っている。
 勘違いも甚だしい。

 今日だけでも、どれだけの男の視線を集めていると思っているのか。

 もし、彼女が真実を知ったら。
 彼女は喜んで、俺との恋人役を解消するだろうか。

 馬鹿馬鹿しい。
 もしもの世界を想像したところで、意味はない。

 自分の心を誤魔化し、天井を仰いだ。

 成り行きで肌を重ねてしまえば、もしかして。
 狡い考えに、流されかけた。
 ほとんど濁流に飲み込まれていた。

 流されてしまえば良かったのか。

 疲れが出たからといっても、あまりに無防備に眠る彼女の顔を見て、涙の跡を指の腹で拭う。

 健太郎の結婚を知ったら、どういう反応をするだろうか。

 彼女から、慰めてほしいと泣きつかれたら。
 次は、止められる自信がない。
< 115 / 228 >

この作品をシェア

pagetop