恋人のフリはもう嫌です

 目を覚ますと、見慣れぬベッドにいた。

 しばらくぼんやりしたあと、状況を鮮明に思い出し、慌てて飛び起きる。

 ここは西山さんのマンションだ。

 寝室に彼の姿はない。
 前回来た時の記憶を辿り、リビングへと顔を出す。

「千穂ちゃん、おはよう」

 明るい日差しの中、爽やかな笑顔を向けられ、戸惑いながら「おはようございます」と応えた。

「固いな。俺たちは一夜を明かした恋人、なんだよ?」

「に、西山さん!」

「ん? 事実でしょう」

 目を弓形にして、彼は平然と言う。

 驚くほど彼は自然体で、彼にとって昨日の出来事は、取るに足らないハプニング程度なんだなあと、胸の奥がチクリと音を立てた。

「朝はいつも軽めなんだ。パンとコーヒー、食べるかな?」

「ええ。いただきます」

「顔を洗っておいで。歯ブラシとか、あるもの使っていいから」
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