恋人のフリはもう嫌です

「すみません。西山さんは、どちらにいらっしゃいますか」

 情報システム課の入り口辺りの人に声をかけると、怪訝な表情をされた。

 しまった。
 他部署なのだから、『西山主任は』と聞くべきだったかな。

 見当違いの反省だと知るのは、声をかけた女性の冷たい対応。

「あなたみたいな人が来るから、西山さんの業務が進まないのよ」

 私にしか聞こえない程度の声のボリュームは、耳を疑う内容。

 ううん。今までが恵まれていたのだと、改めて気づく。
 社内一モテる彼との交際を、みんなに肯定されるわけがない。

 冷たい言葉を放っただけで、女性は私の存在は無かったようにパソコンに向かってしまった。

 西山さんがどちらにいるのか、わからないまま。
 広いフロアを見渡しても、みんながみんな同じようにパソコンに向かっていて、人酔いしそうになる。

 寝不足が祟り、立ちくらみがする。
 けれど、こんなところで倒れてなるものかと、気力だけで踏ん張るとふわりと肩に手が置かれた。
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