恋人のフリはもう嫌です

 彼女の質問に、西山さんは冷ややかな声を出した。
 ずっと温和な彼ばかり見ていて、忘れていた。

 歓迎会での西山さんは、女性に無情な対応をしていた。
 その時の彼みたいだ。

「俺が希望を出した。彼女に同行してもらうのも、俺の要望だよ。彼女の仕事ぶりを知らないのに、陰口はやめてほしい」

 やっぱり私をよく思っていない人はたくさんいて、たまたま私の周りの人たちが肯定的なだけ。

 彼と女性とのやり取りでも、垣間見える私の立ち位置。

 女性は、心外だとばかりの声を出した。

「陰口は言っていません」

「そう」

 人をも殺めそうな眼差しを彼女に向け、西山さんは私に言った。

「行こう。遅れるといけない」
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