恋人のフリはもう嫌です

 昨晩は寝不足と疲れで知らない間に眠っていて、気づけば朝だった。

 彼の提案通り、彼と一緒に出社する。
 簡単に承諾した自分を、後悔した。

 前とは違い、健太郎さんは隣にはいない。

 目立って仕方ないのに、彼にとってはこれが日常だからか、動じていない。

 なんとかやり過ごし、総務課まで辿り着くと吉岡さんが心配そうな顔で聞いてきた。

「ねえ。藤井ちゃんって、腎臓が1つないって本当?」

「はい?」

 突拍子もない質問に、頭にはたくさんの疑問符が浮かぶ。

「なんでも、西山さんが危ない仕事に加担しているからって」

 臓器売買。

 物騒な名称が再び思い出され、やっぱりこの手の噂が回るのは音速だと、感心するような呆れるような気持ちになる。

「とんでもない」

「そうよねえ」

 しかも売られるのが私に変換されているのは、せめてもの嫌味なのだろう。
 内臓を売るくらいの心意気を見せろ、とでも言いたいわけ?

「望むところよ」

 小さく呟いて、パソコンを立ち上げた。
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