恋人のフリはもう嫌です

 西山さんの案内で着いた和食屋さんは、趣きのある上品なお店。
 掘りごたつのある半個室に通され、松本さんの前に西山さん、その隣に私が座った。

「松本さん、飲まれますか?」

 メニューを開きながら、お伺いを立てた西山さんに私は待ったをかけた。

「失礼なのは承知ですが、アルコール無しではダメですか? 今後、取り引きのある松本さんに失態を見せるのは」

 松本さんへ、というよりも西山さんへ訴えた。

 あんな風に酔って、色気爆破した西山さんとのやり取りを松本さんには見せられない。

 もしかしたら、性別の垣根を越えて松本さんが落ちる可能性だって十分にある。

「藤井さん、弱いんだ」

「えっと、はい。すみません」

 私が弱いという設定にした方が、今は各方面の体裁が保たれる気がした。

「かわいいね」

「いえ、お気遣いすみません」

 本当は1杯や2杯くらい平気だけれど、西山さんは前の感じからして弱そうな気がするから。
 とにかく、彼を酔わせたくない。
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