恋人のフリはもう嫌です

 松本さんは差し出されたドリンクのメニューを西山さんの方へ向けた。

「俺も飲まなくていいです」

「では、食事は簡単なコースを頼みましたので」

 ドリンクメニューを閉じて片付ける西山さんに、松本さんが気を利かせて言った。
 私にしてみたら、いらない気の使い方だけれど。

「西山さんも飲まれないのですか? お好きでしたら、お気になさらずに」

「いえ。私も、それほど強い方ではありませんので」

 目を伏せて困ったように言う彼を横目に、何故だかキュンとする。

 それは正面に座った松本さんも同じだったようで、感嘆の声を漏らした。

「西山さん、おモテになるでしょう。俺、今うっかり惚れそうでした」

「ご冗談を」

 西山さんは謙遜しているけれど、私はここぞとばかりに悪ノリする。

「そうなんですよ。隣にいると、いっつも女性の視線が突き刺さります」

「藤井さん、敬語やめてよ。あ、西山さん、俺がお願いしたので、藤井さんが俺に敬語じゃなくても叱らないでくださいね」

「あの、松本さんが砕けた感じでいいからと、言ってくださって」

「そう」
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