恋人のフリはもう嫌です
西山さんが時間を確認して「そろそろ」と言うのを聞き、松本さんが「楽しかったので、今日は俺が払います」と男気を出した発言をした。
「いえ。支払いは済んでいますので、お気になさらずに」
これは、男気とスマートのぶつかり合いだ。
「いや、でも」
食い下がる松本さんに西山さんは大人の対応を見せ、引き下がらせた。
「経費ですので、大丈夫です」
「ああ、そうか。そうですね。ご馳走様です」
経費で落ちるのかな。
まあ、一応は取引先だしね。
お店を出ようと腰を上げかけた私に、松本さんは自分のスマホを出して言った。
「藤井さん、連絡先を聞いてもいいかな」
「え。あ、でしたら名刺を」
私が鞄を開けようとすると、松本さんが制止する。
「そうじゃなくてさ」
苦笑する松本さんに、私ではなく西山さんが返事をした。
「松本さん。ご用件は私のメールアドレスか、もしくは名刺に記載された個人持ちの携帯電話にご連絡ください。藤井は新人ですので、個人の携帯は持っていません」