恋人のフリはもう嫌です
私以上に事務的な対応に、松本さんは面食らった様子で口籠った。
「あ、いえ。そういう固い感じではなくて」
今までずっと和かに対応していた西山さんが、淡々とした口調で告げる。
「会社同士の付き合いがある人物に、プライベートの連絡先を聞くのはマナー違反です」
松本さんの口元からは笑みが消え、申し訳なそうに言った。
「そうですね。キタガワさんはうちと長期契約をしたいから、藤井さんも俺の誘いに乗ってくれたんですよね」
「そういうわけでは」と、私が言おうとする前に、手が強く掴まれて声が出せない。
松本さんが目の前にいるのに、西山さんはテーブルの下で私の手を掴んで離さなかった。
「これは男として、フェアじゃなかった。契約が済んでから、出直します」
変な空気になりそうになり、「とりあえず、お店を出ましょう」と二人を促した。
「今日は大変楽しかったです。ありがとうございました」
お礼を口にして、松本さんと駅で別れた。