恋人のフリはもう嫌です
「普通、真剣なお付き合いをしている人でないと、自宅の寝室には入れません」
「なにも考えていなかったからね。なにかあれば引っ越せばいいし、なにも愛着というものがなくて」
「そんな」
寂しい気持ちに押し流されかけ、騙されそうになる。
「恵梨香は俺がブラウニーを辞めると知ったら、勝手に怒って。私の恋人にふさわしくないって言っていたな。付き合った記憶はまるでないのに」
「最低」
非難しているのに、彼は反論するわけでも、怒るわけでもなく、静かに話す。
「うん。そうだね」
「言い訳は、してくれないんですね」
「過去は変えられないからね」
変える、変えられない、の問題ではないのに。
彼とは、争点があまりにも違い過ぎて肩を落とす。
「忘れられない人は」
聞くつもりはなかった。
私に似ていると言った、忘れられない人さえ遊びだったと言いそうな彼から答えを聞くのが怖い。