恋人のフリはもう嫌です
「ミイっていう子で、少し君に似ているって言ったね」
穏やかな顔をして話し出した彼を見て、胸が音を立てて軋んだ。
誰も愛せなかったわけではない。
その事実に良かったと思うのに、そんな彼の忘れられない女性がどこか妬ましかった。
「似ているのは毛並みが艶やかで、つかめないところ」
「毛並み?」
言い回しに違和感を感じ、聞き返す。
「うん。昔、飼っていた猫だよ」
「猫、ですか」
散々胸を痛くさせ、覚悟して聞いたのに。
その相手が猫だったなんて。
タチの悪いからかいに、呆然とする。
それなのに、彼は今はどうでもいい質問をする。
「お酒、千穂ちゃんは弱いわけではないでしょう?」
「え、それは」
「俺の顔を立ててくれたんだよね。そういうところが本当に」
彼は柔らかな表情で、私に歩み寄る。
「ミイはさ。すごくかわいかったよ。甘えてくるくせに、急に素っ気ない態度を取るんだ。そういうところも似ているよ」