恋人のフリはもう嫌です

 苦笑しながら彼は髪をひとすじ取り、その髪にキスをした。

 似合い過ぎるキザな行動に、私は不貞腐れた声を出した。

「猫と違って、私は簡単に攻略できますよ。そしたら私への興味は、チリと同じになりますよね」

 髪から手を離し、頬に手を伸ばした彼に捕まった。
 彼に触れられたら、もうダメだった。

 ゆっくりと顔を近づけてくるのがわかるのに、避けられない。
 彼の唇は私の唇に優しく触れ、首すじにも触れた。

 触れた先から力が抜けていき、彼に寄りかかるようにしがみつく。

 触れていた唇は、躊躇するように離された。

「やめないで」

 掠れた縋るような、情けない声が出た。
 彼は私の言葉に反応して、離そうとしていた体を止めた。
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