恋人のフリはもう嫌です
そして、咎めるように言う。
「経験してみたいという興味本位な気持ちだとしたら、俺はやめておきな」
思わぬ忠告に、首を強く横に振った。
私がどんな気持ちでいるのか、彼は知る由もないけれど、あまりの言われ方に唇をわななかせた。
「西山さんだから」
「え?」
彼の胸元をたたいて訴える。
「西山さんだからに、決まっているじゃないですか」
「この状況で、それを言うのは反則でしょう」
彼は私の手首を掴んで、私の動きを封じた。
一瞬、切なそうな顔と目が合うと、その目は伏せられ、私の指先にキスを落とす。
それは愛おしいものに触れていると、勘違いしてしまいそうな優しいキス。
「あ、あの。西山さん」
「ん?」
「演技は嫌です」
「演技?」
「こんな時まで恋人役は、もう嫌です」