恋人のフリはもう嫌です

 伏せられていた目はしっかりと私を捉え、射抜くように見つめた。

「どうして?」

「それは」

 もう、隠し通させない。

 視線を泳がせるように漂わせると、彼は私の頬をそっと撫でて言った。

「好き、だよ。でなきゃ、こんなに優しくしない」

「え、あの、今、なんて」

 今の彼は、前の時みたいに酔っていない。

 慌てて顔を上げ彼を見つめ返すと、今度は彼が目を逸らし、手の甲で口元を隠すようにしてぼやいた。

「健太郎を想っている千穂ちゃんに、手を出すつもりは無かった。それがあんな」

「あんな?」

 私の頭をかき回し、彼は諭すように言う。

「キスをしてくるような男に、体を委ねてはダメだ。雰囲気に流されたのだとしても、「やめないで」だなんて言うのはもっとダメだよ」

 目尻を下げた彼は、私に背を向け「風呂に入って寝よう」と言った。

 その顔が寂しそうに見えたのは、私がそう思いたいから?

 広い背中が壁のように感じて、おずおずと彼との距離を詰めると手で触れ、頬を寄せる。

 彼の温もりを感じながら、私は胸の内を打ち明けた。
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