恋人のフリはもう嫌です

「好きだ。千穂」

 ゆっくりと近づく唇を受け入れると、彼は優しく私の唇に重ねた。
 その優しい口付けが余計にふわふわさせて、夢みたいに感じた。

 彼は唇を僅かに離して、囁いた。

「さっきの続き、する?」

「夢、ですか?」

「夢ではないかな。でも、俺も現実だって、千穂ちゃんを捕まえておきたい」

 するりと滑らされた手に体を反らすと、自然と彼の体に近づいた。

「あ、あの」

 戸惑った声を漏らすと、彼は悪戯っぽく言った。

「風呂に入ろうか」

「い、一緒にですか?」

「ハハ。そういうつもりではなかったけれど。千穂ちゃんには無理でしょう?」

「の、望むところです」

 ブハッと吹き出して、彼は笑う。

「ゆっくり、するね」

「な、なんだか言い方が」

「ん? ゆっくり愛すからね、の方がよかった?」

 妖しい視線を向けられ、彼から距離を取ろうと思っても、それは叶わなかった。
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