恋人のフリはもう嫌です
気持ちが通じ合って、体を重ねた。
それからは蜜月が続き、にやけそうになる顔を正そうと懸命にならなければならない。
というのが私の中にある、付き合いたての恋人同士のイメージだった。
けれど彼はあの日以来、必要以上には私に触れない。
優しいキスをしたとしても、慈しむような眼差しを向けられ、同じベッドに入ったとしても。
「おやすみ」
と、言って目を閉じてしまう。
未だ安全面が心配だからと、通勤は一緒の上に仕事でも一緒に過ごし、同じ家に帰る。
四六時中を共に過ごしているのに、これでは恋人役をしていた頃と変わらない。
彼は『一度寝た女とは、二度と寝ない男』とか、そういう異名があったりして、と訝ってみたり。