恋人のフリはもう嫌です

 そんな日が続いた数日。
 今日はどうしても出なければならない会議があるからと、先に帰るように言われた。

 別で帰ると聞き、寂しさよりも開放感を感じた私も、間違っているのかもしれないな。

 ただ、過保護なところは相変わらずで、健太郎さんと一緒に帰るように言伝られた。

 並んで隣を歩く人が、西山さんでない光景に違和感を感じるほどに、彼といたのだと気付いて苦笑する。

「どうしたの。楽しそうだね」

 健太郎さんは、穏やかに微笑んで言う。

「しかし男のマンションに送り届けろ。と、頼まれるのは屈辱的だな」

 兄の顔を見せた健太郎さんがぼやいた。

「いえ。それは悪いので、自分の家に帰ります。久しぶりに、帰りたいですし」

 本音混じりの私の意見を聞き、健太郎さんが悪い顔をして聞く。

「いいの? 透哉、拗ねるよ」

「まさか。拗ねませんよ。彼も、羽を伸ばしたいのではないでしょうか。遊んで過ごされていたみたいですし」

 嫌味半分の言葉が出ると、健太郎さんは「ハハ」と軽く笑った。
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