恋人のフリはもう嫌です

「あ、あの。ご心配をおかけしました」

「ああ。千穂ちゃん」

 安堵したような声を聞き、心苦しい。
 すぐに連絡してと言われていたのに。

 健太郎さんは、無理難題を押し付けてきた。

「千穂ちゃん。たくさん甘えてみたら」

「そ、それは」

「ま、お邪魔者は退散しますよ」

「ああ、そうしてくれ」

 頭上から彼が言って、渡されたスマホは取り上げられ、通話が切られた。

「あいつの声を聞くと興醒めだな。シャワー借りていい?」

 いつもの雰囲気に戻った彼は、立ち上がって部屋へと上がる。
 動き出さない私に、彼が振り返った。

「どうしたの?」

「腰が、抜けてしまって」

 情けない声を出す私に、彼は声を詰まらせた後、喉を鳴らして笑った。

「じゃ、勝手に借りるね」

「はい。すみません」

 彼が浴室に入っていくのを感じ、息をついた。

 突然の色気全開の彼を、受け止めきれなかった。
 そう思う反面、あのまま流されてしまいたかった気持ちが交錯する。

 欲情に飲まれ、理性を失った彼の余裕のない表情が思い出されて、身悶えた。
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