恋人のフリはもう嫌です

 着替えがあるわけもなく、腰にバスタオルを巻いただけの彼と交代して、逃げるように私もシャワーを浴びた。

 出ていくと、彼が半裸の状態でキッチンに立っていた。

「あの、目に毒、ではなくて、火傷しそうで、危ないです」

「ん? まあ、大丈夫でしょう。レンジだけだから。夕食、これのつもりでしょう」

 彼が手にしているのは、私がコンビニで買ったパスタ。

「ええ。はい」

 彼が温めてくれて、私の夕食が用意される。

「あの、西山さんは」

「会議前に、会社で適当に食べた」

 狭い部屋のローテーブルにつくと、彼は向かいに座って悩ましいポーズで私を見つめてくる。

「あの、そこに座るとテレビ見えないのでは」

 ベッド、ローテーブル、テレビの順に置かれている部屋は、ベッドを背にして座る私の前に彼が座ると、彼はテレビを背にするのだ。

 今はつけてはいないけれど、沈黙になるくらいなら賑やかしにつけたいくらいで。

「いいよ。千穂ちゃんを見ていたい」

「だって、目をやり場に困ります」

 半裸で、腕に頭を預けた気怠げな格好は、直視できない。

「隣に座るとちょっかいかけそうだから、自粛」

 大人の冷めた表情で、似つかわしくない発言をするから、うまくパスタを飲み込めずにお茶で流し込んだ。
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