恋人のフリはもう嫌です

 正直、味がわからない食事を済ませ、寝る準備をする。
 いつも通りにしていないと、逃げ出したくなるような心境になっていた。

「あの、歯ブラシ、ストックの新品なので、よかったら」

「うん」

 洗面所は狭くて、順番に歯を磨く。
 じりじり近づいてくる『その時』に、胃がキリキリと痛くなった。

「シーツかなにか、貸してもらえない?」

「え」

「さすがに肩が冷える」

「あ、はい。すみません。気がつかなくて」

「千穂ちゃんはベッド使いな。俺、下で寝るから」

「え、あ、はい」

 洗い替えのシーツを出し、彼に渡すと肩からかけて包まった。

「なに? 見過ぎ」

 苦笑する彼から、慌てて目を逸らす。

「だって」

「だって?」

 ベッドに腰をかけた私の隣に、彼は腰かけた。
 ベッドは、ギシッと軋んだ音をさせる。

「近くにいるのに」

「うん」
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