恋人のフリはもう嫌です

 ここに来た当初の情熱はどこかに行ったみたいに、冷静な彼が私の手を握った。
 彼の温もりが流れ込んできて、言葉をこぼす。

「触れていたいって思うのは、私だけですか?」

 彼は考えてから告げた。

「それだけが目的の、変態だと思われたくない」

「そしたら、私は変態ですか?」

 ゆっくりと握っている手を持ち上げ、彼は私の手の甲にキスをした。
 その様を目で追って、キスを終えた彼と目が合う。

「あれ以来、俺が傍に行くと体を固くして。緊張が丸分かりだったから」

「それは緊張しますよ。ああいった後には、どんな話をすればいいのかなとか」

「うん。俺も」

 彼は遊び慣れていて、それなのに?
 そこまで思って、健太郎さんの言葉が浮かぶ。

『透哉はあの風貌だから、遊んでいるように見られるよね。根は真面目だから、期待に応えちゃうしね』

『本当の自分とは違う自分を演じるうちに、心は擦り減るよね』

 本当の西山さんって。
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