恋人のフリはもう嫌です
「俺に目もくれない君に興味が出た」
真っ直ぐに向けられている眼差しは、妖しく細められた。
カウンターの端に座る私には、逃げ場がない。
未だ黙っている私に、彼は言葉を重ねた。
「健太郎に好意があるとは、実に興味深いよ」
「違っ」
どこをどう勘違いしたら、そうなるわけ?
憤慨して顔を上げると、彼の眼差しに捕まった。
「違うのなら、俺の提案を聞き入れるくらい容易いよね」
「それは」
「それとも、俺といると好きになってしまいそうで怖い?」
試すように目を弓形にして言われるものだから、私はつい大口を叩いた。
「まさか、あり得ません」
ああ、誰か。私の口を縫い付けて。
得たい答えを聞いた彼は、満足そうに言った。
罠にまんまとはめられた気分だ。
「だよね。それなら余裕だ。俺の恋人役」
「ええ。朝飯前ですとも」
ああ、この負けん気の強い意地っ張りな性格。
重石を付けて、海に沈めてしまいたい。