恋人のフリはもう嫌です
「私、西山さんは遊んでいた方なので、初心者の私では様々なご要望にお応えできていなかったのかなって」
「ご要望って」
彼は顔を崩して笑う。
優しい彼の顔に安堵して、本音をこぼす。
「それでも、いいかって」
言葉にするとチクリと胸が痛んだ。
彼にとっての、遊びでもいいや。
彼にとって物足りないからと、飽きられたとしても仕方ないか、と。
そう納得していたつもりが、やっぱり寂しい。
彼は私の頬を自身の手の甲で撫で、「ごめんね」と呟いた。
「俺も初心者だから」
そんなわけないでしょう。
あの日、どれほど私を翻弄したと思っているんですか!
それらが全て顔に出ていたみたいで、頭をコチンと当てた彼が「顔に出過ぎ」と苦笑した。
「俺の場合、経験はあっても心がついていっていなくて」
サラリと告げられる彼の過去。
わかり切っている話なのに、胸はジクジクと痛い。
「そんな顔しないで。過去を偽りたくなる」
後頭部に手を添えて、引き寄せられると自然な所作で彼はキスをする。
「キスで、誤魔化されたくありません」
ブスッとした声で告げると「ハハ。ブサイクな顔」と鼻をつままれた。