恋人のフリはもう嫌です
着替えに帰った透哉さんとは、別々の出勤となり、健太郎さんと一緒の出勤となった。
わざわざ待ち合わせて行かなくても、と、思うのに、その訴えは許してもらえなかった。
「おはよ。あれ、風邪?」
マスク姿の私を見て、健太郎さんが心配そうな顔をして、心苦しい。
「えっと。薄着で眠ってしまって」
「ガラガラ声じゃないか。残暑厳しいと言っても、朝晩は冷え込むから気をつけないと」
「はい」
父親に、朝帰りが見つかってしまったみたいに恥ずかしい。
彼と体を重ねたせいで、声が枯れたと知られたら、羞恥心で死ねると思う。
「透哉、泊まったの?」
「えっ。いえ、あの、帰りました」
帰ったのは本当で、ベッドが狭くて眠れないし着替えたいから、と。
ただ、帰ったのは、朝方で。
彼の帰り際の呟きを思い出し、顔が熱くなりそうで俯いた。
「仕事がある日に、自制できなくなるまで抱くとは思わなかった」
彼との蜜月が始まったら、身が持たない。
そこまで思って、昨晩の情事が蘇りそうになり、ひとり心の中でジタバタした。