恋人のフリはもう嫌です
「どうしたの。行く前から疲れている?」
「いえ。改めて西山さんの人気ぶりに、圧巻というか」
「ああ」
彼が小さく笑うものだから、この人が崖から突き落とすタイプの人だったと急に思い出す。
「もしかして」
「なに?」
まさかね。
ああなるとわかっていて、10階に呼びつけたわけじゃないよね。
「面倒な女避けを買って出てくれるんだから、愛されているよね。俺って」
目を見開き、口の端を上げた彼を信じられない気持ちで見つめる。
「ごめんね。先日、自慢の彼女だって宣言しちゃって」
「嫌味ですか」
そもそも私たちの始まりは、彼が言い寄ってくる女性が面倒で、私に女避けのために恋人役を頼んだのがきっかけで。
その役割は、まだ続いていたと言うの?
「事実でしょう?」
「寝言は寝てから言ってください」
冷たく突き放すと、彼は私を見つめて言う。
「まだ、俺の気持ち伝わっていない?」
運転席から送られる熱視線に、誤魔化されそうになって下を向く。