恋人のフリはもう嫌です

「千穂ちゃんの人柄だよ。俺の職場にも、千穂ちゃんの良さが伝わればいいのに。いっそ、情報システム課で仕事する?」

 楽しそうに言う彼に、目くじらを立てる。

「命がいくらあっても足りません!」

 精神をやられるのが先か、毒でも盛られるか、はたまた彼の色気にやられるか。
 これ以上彼との時間を増やしたら、致死量に達すると思う。

「それは残念。隙を見て、イチャイチャできるかもしれないのに。社内恋愛の醍醐味でしょう? 俺、会議室に呼び出したりした方がいい?」

「いいえ。結構です!」

 からかって面白がっているだけの彼に、冷たく対応をする。

「今日は、大事な契約の最終局面になるかもしれない。千穂ちゃんが冷たいと、力が出ないかもなあ」

 そんな口車に乗せられない。
 そう思うのに、口は勝手に動く。

「そう言っておいて、完璧にこなすくせに」

「惚れ直す?」

「知りません!」
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