恋人のフリはもう嫌です

「ただ」

「ただ?」

 雲行きが怪しくなりそうだと、親子で眉を潜め、透哉さんの続きの言葉を待つ。

「同梱されている説明書は簡素で、この機器の機能を使いこなすのは一般のお客様では難しいかと」

「では、キタガワさんでもシステムの抱き合わせで売りたいと、そういう話ですな」

 重たいシャッターが閉まった音を聞いた気がして、慌てて訂正する。

「いえ。西山が言いたいのは、そういう流れではなくてですね。こちらでよろしければ、使っていただきたくて用意しました」

 私は持参した資料を、お二人にお見せする。

「これは?」

「機械にそれほど精通していなくとも、パソコンさえあれば勤怠システムとして使えるまでの手順書になります」

「ほお。丁寧ですな」

 松本社長は感心したように、資料に目を通している。
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