恋人のフリはもう嫌です
そもそも私、藤井 千穂 (ふじい ちほ) と社内一のモテ男、西山さんに、接点などない。
青葉が芽吹いたばかりの4月。
私はキタガワ製作所に入社した。
私が勤務する本社以外にも各地に支店があり、従業員数は12,000人ほど。
そのうち本社勤務の約600人が、10階建ての自社ビルに勤務している。
キタガワ製作所はここ最近、急成長を遂げている注目される企業のひとつだ。
急成長の一端を担っていると言っても、過言ではない人物。
それが彼、西山さんだったりする。
新入社員研修を終え、総務課に配属された私はみんなの噂の的である西山さんを一方的には知っていた。
それは主に教育担当の吉岡 有紀 (よしおか ゆき) さんからの情報で。
「藤井ちゃん。今日の新人歓迎会。ヘルプデスクのメンバーと合同だって」
ざくばらんな性格の吉岡さんには担当初日から可愛がってもらっていて、藤井ちゃんと呼ばれていた。
「え、どうしてですか」
「総務はヘルプデスクの人と関わる機会が多いから、というのが建前で、みんな西山さんとお近づきになりたいのよ」
そうか。
ヘルプデスクは、西山さんが所属する部署だ。
情報システム課。
システム構築を主な仕事としている部署だけれど、社内ヘルプデスクとしての役割も担っているため、彼らの部署はヘルプデスクと呼ばれている。