恋人のフリはもう嫌です
定時になり帰り支度をしていると、西山さんが現れた。
「もう帰れるのかな」
いつもロビーで待ち合わせなのに、わざわざ職場に顔を出した西山さんに慌てふためく。
「すみません。すぐに」
「いや、慌てなくていいよ」
穏やかな声色が、逆に居た堪れない。
こういう日に限って、パソコンは『更新プログラムを実行しています』という画面を表示させ、素直に終わらせてくれない。
もたもたしている私の横で、吉岡さんが西山さんに声をかけた。
「西山さん、お電話をかわっていただき、ありがとうございました」
吉岡さんが話す内容を聞き、私も頭を下げた。
「すみません。私が対応できないばっかりに」
小さくなる私に、吉岡さんが優しく言った。
「あれは、藤井ちゃんが対応できる案件じゃないわ。西山さんにお願いするのが正解」
「ええ。本当に。もしまた電話があったら、彼女にかわらずに、私に直接転送してください」
「はい。お願いします」
吉岡さんと西山さんが話している姿をぼんやり見つめいると「パソコン落とすだけでしょ? やっておくから帰りなさいよ」と、せっつかれ、恐縮しきりで席を離れた。