恋人のフリはもう嫌です

 彼に連れられ、彼のマンションに着いた。
 玄関に入った途端に抱き竦められ、息を詰まらせる。

「あの。透哉さん」

「抱きたい」

 それが抱きしめる方の意味ではないのは、私にだってわかる。

 体に回していた腕を緩め、彼は私を覗き込むと、優しく頬に手を当てた。
 私の顔を輪郭を確かめるように触れ、それから唇を重ねた。

 深くなっていく口付けに必死に応えていると、力が入らなくなってその場に崩れ落ちそうになる。
 その体を支えられ、彼の指先に、唇に翻弄された。

 甘い吐息混じりの声を漏らすと、彼が耳元で囁いた。

「風呂に行こう」

 熱を帯びた眼差しが絡み、彼にしがみついて頷いた。
 一度、恥ずかしい目に合っているのに、今は彼と離れたくなかった。
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